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第39回 日本ドイツ学会大会

開催日: 2023年6月18日(日)     終了いたしました 

会  場: 早稲田大学 早稲田キャンパス14号館

参加費: 一般 1000円 学生 500円、 日本ドイツ学会会員 無料

開催形式: 対面(シンポジウムのみ会員限定でハイブリッド配信)


フォーラム 10時—12時 

(フォーラム1~3は同時平行で開催)

フォーラム1 高等教育のユニバーサル化と大学制度改革―ドイツの事例を通して―

コーディネーター・司会:木戸 裕(元国立国会図書館)

高等教育人口の拡大は、ドイツにおいても顕著であり、すでに同年齢人口の半数以上が大学に入学している(高等教育のユニバーサル化)。本発表では、ボローニャ・プロセスなど世界の動向にも着目しつつ、グローバル化とそれに伴う社会経済の急激な変化のなかで進められているドイツの大学改革に関して、次の3つのテーマを設定して話題を提供する。①「複線型教育制度のもとでの大学改革」、②「デュアル・システムと専門大学(応用科学大学)」、③「グローバル化時代と大学のガバナンス改革」。取り上げる問題としては、①単線型教育制度を採らないドイツで、大学のユニバーサル化を可能とするどんな仕組みが構築されているか、②ドイツの伝統的な「二元制度」が行き詰まりを呈している中で、いかなる活路が考えられているか、③大学がユニバーサル化するなかで、「大学のガバナンス改革」は、どのように進められているかを見ていく。我が国の大学改革と照らし合わせて、参加者とともに意見交換ができれば幸いである。

1) 複線型教育制度のもとでの大学改革      

木戸 裕(元国立国会図書館)

 単線型ではない、複線型(分岐型)の教育制度を採用しているドイツにおいて、高等教育の拡大はどのような展開をたどって「ユニバーサル化」に行きつくことに至ったのか、その経緯と要因について考察する。内容的には、分岐型のシステムの中で、どの学校タイプに学ぶ者でも、また職業教育、職業訓練の道を歩んできた者に対しても、「開かれた大学」とするために、どんな理念にもとづき政策が立案され、それらが実践されているのかを明らかにする。あわせてドイツの事例から、得られる示唆は何かを述べる。


2) デュアル・システムと専門大学(応用科学大学)      

佐藤勝彦(ブレーメン経済工科大学)

 2010年代に入り、大学入学者がドイツの伝統的なデュアル・システムを選択する若者の数を上回っている。この背景として種々の要因が考えられるが、約半世紀前に創設された専門大学(Fachhochschule:HAW応用科学大学と呼ばれている。)の存在を無視できないであろう。現在、専門大学に入学する者の割合は、全大学入学者数の約半数近くになっている。本発表では、専門大学において注目される実践的な教育内容や従来の「デュアル・システム」に代わる大学版「デュアル学修(Duales Studium)」に関して考察する。


3) グローバル化時代と大学のガバナンス改革

寺倉憲一(元国立国会図書館)

     急速なグローバル化等に伴い、大学の競争力強化に向けて、学長の権限強化等のガバナンス改革が各国で進んでいる。その背景にはNPM(新公共経営)の考え方があるとされ、ドイツの大学も国際的潮流の例外ではない。ドイツでは、1998年の「大学大綱法」改正以降、大学のガバナンス体制が各州法に委ねられ、州ごとに様々な在り方が見られるようになった。学問の自由の侵害として違憲訴訟が提起された事例等も含め、これらの動向の分析を通して大学のガバナンスの在り方について展望したい。


フォーラム2  デモクラシーとシアトロクラシー ――民主主義思想と演劇の関係について

                                                     司会:平田栄一朗(慶應義塾大学)

ヨーロッパの哲学や政治思想では近年、民主主義と演劇性の直接・間接的な関係を考察して、移民や難民、女性などを社会の中により確実に迎え入れたり、民主主義の新たな可能性を広げるための理論を模索している。それらの論はまた、民主主義と演劇性が複雑に絡み合った関係にあることを多かれ少なかれ認めている。それゆえ民主主義の良し悪しを考えることは、演劇性の良し悪しを考えることでもある。本フォーラムではこの両者の関係をクリストフ・メンケ、ユリアーネ・レベンティッシュ、オリヴァー・マーヒャルトの政治思想論・美学論に当たって解き明かし、この関係を考察することがより開かれた民主主義の発想につながることを導き出す。また視点を変えて、演劇学の立場からこれら三者の議論を検討すると、舞台作品を見て考察することは、民主主義と演劇性に関する知見を広げることにつながる。このことについていくつかの具体例から説明したい。

1) 民主主義思想と演劇(性)の関係について
      ――クリストフ・メンケ、ユリアーネ・レベンティッシュ、オリヴァー・マーヒャルトの芸術・政治思想論
   

平田栄一朗(慶應義塾大学)

 本発表では、フォーラムの趣旨文において言及したメンケ、レベンティッシュ、マーヒャルトの政治思想論や美学論を手がかりに民主主義の価値観と演劇性がいかに混在しているかを明らかにする。見極め難いようにして混在する両者の関係を考慮すると、民主主義の議論には従来以上に幅広い視点が必要となる。この視点を私たちに示唆するのが「見る場(テアトロン)」としての演劇であるが、その意 義について発表の最後で述べたい。


2) 芸術の政治化/政治の芸術化――クリストフ・シュリンゲンジーフの「チャンス2000」を例として   

北川千香子(慶應義塾大学)

 シュリンゲンジーフの選挙活動「チャンス2000」(1998)は、シアトロクラシーを巧妙に利用して政治介入したパフォーマンスである。それは見せ物、集会、トークショーなど演劇性を前面に出しながら、センセーショナルなスローガンを掲げて民主主義を追求し、現実の政治を刺激しようとした。この演劇的政治運動が芸術特有の虚構性によって成し得たものは何だったのかを、メンケとレベンティッシュの美学論を軸に再検討する。


3) ハイナー・ミュラー作『ヴォロコラムスク幹線路』における「民主主義」的主体   

石見 舟(慶應義塾大学)

 東独を代表する劇作家ハイナー・ミュラー(1929-1995)が1980年代に執筆した戯曲『ヴォロコラムスク幹線路1-5』は、ドイツとソ連を繋ぐ幹線路を戦車が東あるいは西へ進行する様々な状況下での対立ないし葛藤を描いている。この戯曲に特徴的なのは、台詞の発話者が誰か分からなくなるようにあえて混交させるという手法である。これを、演劇美学の転回とマーヒャルトの政治思想を参照しながら、括弧付きの民主主義国家における政治的主体表象の一例として考察する。


フォーラム3 大学の専門教育における歴史学と言語学の対話と協働 ――ドイツ語史料をどう読むか

                                        共同報告:川喜田敦子(東京大学)・林 明子(中央大学)

外国史研究を志す学生が史料に基づいて研究しようとする場合、歴史学として史料をどう読み解くかという問題が重要であることは論を俟たない。しかし、外国史の場合、対象地域の現地言語で書かれた史料を読み解くための外国語の力をどのように養うかということも教育上の大きな課題になる。 外国語で書かれた史料と向き合う場合、語や統語レベルの正しい理解は大前提だが、本フォーラムで考えたいのは、それにとどまらないドイツ語史料との向き合い方を、言語そのものを分析する言語学分野との協働のなかから探り、教育に生かせないかということである。この問いの根底には、同一のテクストを歴史学と言語学の双方の方法で分析し得られた結果を糾合したときに、史料の読み解きに新たな示唆が得られるのではないかという関心がある。
 本フォーラムでは、史料テクストの言語学的な分析の結果を歴史学の視点から受け止めるという言語学と歴史学の対話と協働の試みについて、授業実践に基づいて報告する。具体的には、ベルリンの壁崩壊後、1989年12月にドレスデンで行われたH・コールの演説(全文、およびドイツの歴史教科書に掲載された抜粋)を例として取り上げ、テクスト分析、授業実践、実践に基づく考察を柱として報告を行う。以上を通じて、歴史学・言語学双方の分野の方法と関心を結び合わせることが、大学におけるドイツ史の教育においてどのような意味をもつかを考えてみたい。 なお、このフォーラムの報告は科学研究費補助金基盤研究(C)「専門分野の教育を支える言語変種「学術ドイツ語」の習得:「読み」を焦点に」の成果に基づいて行われる。


  1) 分野間協働の趣旨と経緯
  2) H・コールのドレスデン演説の分析:分野間協働の授業に向けての準備
  3) 共同授業の実践報告:歴史学分野「ドイツ社会誌演習」と言語学分野「ドイツ言語様態論」
  4) 授業実践に基づく考察と提言および歴史学と言語学の協働をめぐる展望 

 

シンポジウム


デジタル×ドイツ研究

13時30分-17時 

司会:青木聡子(東北大学)・速水淑子(東京大学)
コメント:林 志津江(法政大学)・香川 檀(武蔵大学)

企画趣旨                              

  日本では、狩猟社会・農耕社会・工業社会・情報社会に続く「新たな社会」としての「ソサエティ5.0」、ドイツでは「インダストリー4.0」(第4次産業革命)という未来像が語られることがあるが、いずれにおいてもキーワードは「デジタル」である。より身近な研究や教育の場でもデジタル化が進みつつある昨今、私たちはそれにどう向き合えば良いのだろうか。ここでいう「デジタル化」とは、さしあたり、①読み書きやコミュニケーションなどのインフラのデジタル化、②知識や情報のオンライン・データベース化、③コンピュータのアルゴリズムやAI解析ツールの利用、の3つの次元で相補的に進んでいる状況、と捉えられる。①については、コロナ禍で加速したようにも見えるし、③の例としては、昨年末から世界中で話題になっているChatGPTが挙げられるだろう。ドイツ語圏の人文・社会系の学問に携わるなかで、すでに研究・教育面で能動的にデジタル化に向き合っている方たちの実践例を手がかりに、デジタル化の短期的・長期的な可能性や課題を考えたい。

森田直子(上智大学)

1.ドイツにおけるデジタル・ヒューマニティーズ

宮川 創(国立国語研究所)

 ゲッティンゲン大学にて2015年から2020年まで、デジタル・ヒューマニティーズのプロジェクトで雇用され働いていた発表者が、ドイツにおけるデジタル・ヒューマニティーズの現状を、学界・技術・教育・財政などの面から詳述する。


2.デジタル×文献研究

中村靖子(名古屋大学)

  テキストマイニングの威力は、人間の可読許容量を超えた大量のテキストを極短時間で処理することにとどまらない。マイニングとは深く掘ることであり、「通常の」読書では気づかない深層に埋もれた「意味」を浮かびあがらせることを本意とする。こうした技術に直面して人間の読解能力は、今後どのような役割を果たしていくのだろうか? 文学研究をもっぱらとしてきた報告者が、実際にテキストマイニングの技術を実践する中で見出した新たな可能性について考察する。


3.デジタル×「教科書研究大国」ドイツ―学校教育におけるデジタル教科書・教材の普及と課題           

中園有希(琉球大学)

 デジタル教科書やOER(オープン教育リソース)に代表されるデジタル教材は、2010年代以降、それまでデジタルに対しどちらかというと保守的であったドイツの初等中等教育現場においても急速な普及を見せ、公教育における存在感を増している。本報告では、教科書に関し世界有数の研究蓄積を有する「教科書研究大国」ドイツが、教育のデジタル化を初等中等教育の教科書・教材開発においてどのように受容し、どのような課題に直面しているのか、教育学の観点から具体的な事例とともに検討したい。

(2023/4/27更新)