≪第24回 日本ドイツ学会総会・シンポジウムの記録≫
テーマ 記憶と想起の空間―ドイツにおける歴史意識のアクチュアリティ
開催日 2008年6月21日(土)
会 場 筑波大学総合研究棟A(茨城県つくば市天王台1-1-1)
フォーラム |
総合研究棟A
107,110,111 |
10:00-12:00 |
会員総会 |
総合研究棟A 110 |
13:00-13:45 |
シンポジウム |
総合研究棟A 110 |
13:45-17:45 |
懇親会 |
スープファクトリー |
18:00-20:00 |
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フォーラム (3フォーラム同時開催)
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- 愛と欲望のナチズム ―
「健全な性生活」の罠 田野大輔(大阪経済大学)
ナチズムは一般に性にたいして抑圧的で、もっぱら保守的な性道徳を唱えていたかのように考えられているが、実際には「民族の健全化」という目標のもと、積極的な出生奨励策をうちだすとともに、健康で豊かな性生活をめざして盛んに啓蒙活動を展開していた。本報告では、性愛をめぐるナチ党指導部の見解と、性的啓蒙にかかわった教育者・精神科医の活動を検討することで、「健全な性生活」をめざす積極的な要求が、ナチ特有の人口・人種政策の枠組みのなかで、いかなる帰結をもたらすことになったのかを明らかにしたい。
- カール・フローレンツの日本研究とその系譜
― 異文化賞賛に潜む支配の構図 辻 朋季(筑波大学大学院博士課程)
本発表では20世紀前半を代表する3人のドイツ人日本学者(フローレンツ、グンデルト、ドナート)の発言内容や研究業績を分析・比較し、「日本に関する知の支配様式」としての日本学の連続性を検証する。西洋の学術的手法を駆使して日本を研究対象化し、日本文化(特にその結晶とされる文学)の価値を認めて賞賛した彼らの営為が、植民地主義からナチズムへと至る時代においてどのような政治的含意を持っていたのかを考察する。
- 投壜通信からメディア公共圏へ
― アドルノとクルーゲ 竹峰義和(明治大学他非常勤講師)
本報告の主要な目的は、アドルノ美学の内実が、モダニズム芸術の擁護と大衆文化の拒絶という単純な図式にとどまるものではなく、テクノロジー・メディアが孕みもつ批判的な可能性にたいしても開かれたものであるという点を明らかにすることにある。くわえて、本報告では、『美学理論』などで萌芽的に示されたアドルノのメディア美学が、アレクサンダー・クルーゲによって理論的・実践的に継承されたという事実を、クルーゲのテレビ制作活動を中心に検証したい。
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総会・学会奨励賞授賞式
2007年度の日本ドイツ学会奨励賞は『マックス・ヴェーバー ある西欧派ドイツ・ナショナリストの生涯』
(東京大学出版)の著者
今野元氏(愛知県立大学外国語学部)に贈呈されました。 →
詳細はこちら
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シンポジウムテーマ 「記憶と想起の空間 ― ドイツにおける歴史意識のアクチュアリティ」
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- ドイツ記念碑論争 1985-2008 松本 彰(新潟大学)
東西ドイツ統合、首都の移転という激動の中で、記念碑をめぐって多くの論争が起きている。広義では国会議事堂などの歴史的建造物、歴史博物館なども記念碑である。「新しいドイツ」を象徴する記念碑がいろいろ計画され、それらと「古いドイツ」=「ドイツ史」との関係があらためて問われている。20世紀のDDR、ナチズム、二つの世界大戦だけではない。19世紀、さらにはそれ以前のドイツも、問い直されている。
- 記憶の公共空間に介入する現代アート 香川 檀(武蔵大学)
ドイツでは1980年代からナチズムやホロコーストという〈負の過去〉をテーマとした現代美術が顕著な傾向として見られるようになり、公共の場にも記念碑に代わるパブリック・アートとして戦争や迫害の記憶に関する作品が数多く制作されている。本報告は、ドイツにおける公共芸術の伝統と80年代の文化政策の転換を辿りつつ、戦後の〈過去の克服〉と連動するかたちで登場した新しい記念碑アートに焦点を当て、その可能性と問題点を検証する。
- BAUHAUS、「閉鎖」後の
― ナチス/アメリカ/東西ドイツ ― 長田謙一(首都大学東京)
アウシュヴィッツ(1979年登録)、原爆ドーム(96年)とともに第二次大戦の記憶に関わる〈世界遺産〉バウハウス(96年)は、はたしていかなる〈遺産〉とされうるのか。30年代後半以来美術・デザインのみならず社会そのものの希望の表象「民主主義のアポロン」としてアメリカから喧伝され続けたデッサウ・バウハウス校舎は、実は閉鎖後ナチスの地区各種学校等として使用され、45年米軍爆撃で破壊され、76年にDDRのもとで再建されていた。そのガラスのカテドラルは、歴史の局面に応じて異なる光に輝いてきたのである。
- 《記憶論的転回》以後の歴史意識をめぐる試論 岩崎 稔(東京外国語大学)
20世紀の最後の十余年からこのかた、「記憶」と「想起」と「忘却」に関する論争的な局面が、広範な地域、多様な文脈に広がっている。本報告では、こうした兆候が歴史認識と歴史意識にもたらしている、知のモードの、たんなる「景気循環」にはとどまらないような変容を《mnemologische
Wendung》と概念化して、試論的に検討する。とりわけ、「文化的記憶」の際たる事例としてのモニュメントや、それをめぐる論争が提示する位相が、そうした《転回》の指標として利用可能であると考えている。
司 会:
足立信彦(東京大学)
田中洋子(筑波大学)
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☆日本ドイツ学会第24回シンポジウムの発表内容は学会誌
「ドイツ研究43号」(2009年3月発行)に詳しく掲載されています。
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(2009/5/5更新)
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